再び独立
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訪販会社をやめてから以前の小さい事務所は、自分の生活環境とからむ地域的な事情と、本当の意味での代表という希望のもと、そのまま前の仲間に譲り、違う地域でその後自宅兼事務所という形で再び独立して、塗装職人で友人でもある仲間と営業をしながら、同時に工事もこなして行った。
しかし世の中のほとんどの人は「テレビで有名な会社=工事も安心」というイメージがある。 あなたもネームバリューも無く、どことなくぎこちない営業マンが来て、どんな工事をするかも分からない会社に工事を任せられるかと言うと、無理があるだろう。 たまにお客が言う 「ここは人通りがいいし、向こうからもここが見えるから、いい宣伝になるよ」。 お客はいい工事をしてくれと言いたいのであり、本当にそう思っている。もちろん工事は徹底する。 |
確かに駅から住宅街に抜ける道だから、人通りが多いし、ある程度の宣伝にもなる。
しかしキレイになれば近くで塗り替えを考えている人でさえ、あっさり工事するほど簡単ではなく、良い工事をすればお客がくるというのは、妄想に近かった。 それでも工事をしてもらったお客から紹介された時が何度かあった。 足を棒にして契約した工事も嬉しかったが、紹介はお客が十二分に工事に対し喜んでくれている証拠。なお更嬉しい。仲間と喜びあった。 普段から長持ちするように心がけていれば、必然的に細かい部分まで念入りに仕事できるというものだが、こういう時は更に力が入った。 でも景気の良い時代なら続いていたかも知れないが、ベテラン営業マンがやっと契約を取ってくる時代に紹介が永遠に続くわけでもない。 |
ある日、新聞の求人募集のチラシに塗装下請け職人の募集があった。
私は飛びついた。会社はやはり有名俳優を使い、テレビで宣伝している大手。 大手は訪販会社の中でも仕事が安いと知ってはいたが、生活には変えられない。 それよりも「ガンガンやるぞ」と意気込んでいた。 業員も雇って仕事をこなしていったが、一棟、二棟と仕事をするうち、今までやってきたやり方ではとてもではないが、生活していけないことが徐々にわかってくる。 以前は外側から塗れない扉の内側や、格子の内側、納戸の中や物置など、お客の思っていない所まで仕事をすると、喜んでもらえたものだが、これでは喜んでもらって快感を得るなんてことは全く無理。 ヤッパリというより想像以上に厳しい現実を見せつけられ、自分が思うような仕事をしていたら絶対に食べていけない。 |